1日目-1


 約束の日が来た。




 日月たちが所属するサークルは、「オカルト研究会」といういかにも胡散臭くベタな名前の、弱小サークルである。

 活動内容は、週一の割合で集まり、ネットや雑誌で手に入れた証拠写真などを検証し、その写真の手口を暴いては笑うというなんとも性質の悪い活動をしていた。
 学祭などでその暴いた写真などに解説を加えたものを貼りだすだけなのだが、意外にこの手のものは未だに受けるらしく、アンケートでもいいセンを行っている。

  「今年の学祭はさー、合宿が学校だし、趣向を変えて学校の怪談特集にでもする?」

 うねうねと続く山道を登るワゴンの中で、楽しそうに声を弾ませた榊 明子(さかき あきこ)が日月に話しかけてきた。
 目的地は山奥らしく、道のりは険しい。
 明子の何か期待したような声に、運転している高中が笑う。

「ご期待に沿えるかな。意外に普通の家になってるとは思ってるんだけど」
「でも学校だったんですよね? だったら結構大きいと思うんですけど」
「まあ、でかいと言えばでかいな。だけど改装何回かしてるし、学校っていうよりマンションって感じかな」
「えー、そうなんですかあ」

 残念そうにしながらも尚はしゃぐ明子の隣で、日月は苦笑いする。

「まあでも学校の怪談ってベタでいいよな。胡散臭さがうちらっぽいっつーか」
「だよねー! さっすが日月ちゃん! わかってるー!」
「そか?」

 照れる日月に、助手席で寝ていた香川 輝(かがわ こう)が、突如ぼそりと呟いた。

「色ボケ……」
「なっ、なんですか急に!」
「いやー青春してるなあ、カっちゃん」

 流し目でニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる輝は、人事のように嘯くと再び寝の体勢に入る。

「そんなんじゃないですよ……ったく」
「なに?」
「ああああいやーなんでもないから。気にすんな、明子」
「? そお?」

 ならいいけど、と何処かぼんやりした風情で笑うと、明子は窓の外を見始めた。

「あれ、明子酔った?」
「んー、ちょっとそうかも」
「もうちょっと我慢しろー。もうすぐ見えてくるから」
「はーい」

 高中の言葉にだるく応えた明子は、窓に額をつけていた。
 日月は軽く息をつくと、会話が途絶えた車中で特にすることもなく、遠目に同じ窓から外を見る。

 奇妙な土地だ、と、日月はかすかに思う。
 山の標高は高く、主だった街は遠い。
 道も険しく、木々は次々と流れていく。
 日月はかつて行った事のあるスキー場への道のりを思い出していた。
 木々は鬱蒼と茂り、落ちる陰が暗い。

 ふと、反対側の窓から山頂の方を見上げる。
 木々が突如消え、切り開かれた土地が見えた。
 裸になった山、その土地には町があるのだと高中は言っていた。

 陰に切り離された町……その土地はそんな印象を抱かせる。

 佐上は、学校を引き取ったと言っていた。
 それはとりもなおさず、子供が減った、という事が言えるだろう。
 しかし、この遠さでは街の学校に通うのも一苦労だ。
 ……それとも。

(子供が、いない……?)

 佐上は、いとこが死んだ、とも言っていた。
 彼の一族は皆、今から日月たちの行く町に住んでいたという。
 高中もまた、あの町の出身だと言っていた。

 ゾクリ、と、えも知れぬ恐怖が日月を襲った。
 それは、あの『影』という少年に感じた恐怖に似ていた。

「……大丈夫、だよな?」

 日月は口の中で呟く。

 それが確実にやってくる予感だと気付く由もなく。



「ああ、見えてきたぞ。夜陰町だ」

 高中ののんびりとした声に、全員が前を向く。




 そこには確かに、静かな町の姿があった。








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2006.8.1
無駄話。

短っ!
まだ導入部分ですー。
つかもともと手書き原稿にはこんな内容書いてないー(笑)

ホラーの書き方がいまいちわかりません。
この辺ホラーゲームのイメージのノリで書いた記憶が……(テケトー)