prologue




TARGET

Akiko Sakaki age20 ♀
Akari Nakazato age42 ♀
Kayo Yamanaka age21 ♀
Tomoru Takanaka age22 ♂
Kou kagawa age23 ♂
Kaduki Hosi age21 ♂

GUEST

Tisato Nakazato age5 ♀
Satoru Sagami age38 ♂




 青白く光るパソコンのディスプレイをみつめて、少年は静かに呟いた。

「また、犠牲者が出る…こんなことの、為に」

 少年は、震える唇を噛み締めて、その涙を堪えた。

 彼の行く道は修羅の道だろうか。


 護りたかった存在がいた。
 愛すべきものがいた。
 それが、すべて砕ける。


 くだらない…
 くだらない、と、思えてしまう、こんなことの為に。


「だが、命令は運命も同じだ…いずれは」

 忌々しげに言葉を吐くと、彼は幼いその指で、乱暴にディスプレイの電源を落とした。



 ヴゥン、と音を立てて、その機械は沈黙した。












 星 日月(ほし かづき)は、迎えを待っていた。

 大学のサークルでの先輩、高中 灯(たかなか ともる)に夕食を誘われていたのだ。
 普段から粗食に悩まされ、更にバイトの給料日前だ。
 奢ってもらうことを条件に、日月はOKした。
 場所は高級レストランだという。
 なぜわざわざそんなところに行くのかという疑問は湧いたが奢ってもらえるのだから金額の心配は無い。
 待ち合わせの喫茶店で、30分ほど暇をつぶしていると、大きな鈴のついたドアが高中の手で開かれた。

「やぁ、待たせたなぁ、星」

 高中はのんびりそう言うと、頭をかいた。


「いや、そうでもないですよ。何か飲んで行きます?」

 時間に無頓着な性質の日月は、待ち時間というものを苦痛に感じることは無い。
 そして、それは待たせるほうにも無頓着ということである。

「いや、あまり時間も無いから、行こうか」

 そう言われてはじめて自分がのんびりしすぎていたのかもしれないと気付く。
 とは言っても、高中ももともとのんびりした性格なので、どこまでが迷惑だったのかわからない。
 促されるまま席を立った日月は、そのまま高中の車に乗り込んだ。
 レストランの場所は少し遠いところだという。
 車は、夜の帳が降りてくる頃を走っていた。




 日月が連れてこられたレストランは、薄暗く、なんとなく古い感じのするレストランだった。
 入り口に入ると、高中が「待ち合わせの人が居る」とウエイターに告げた。
 人と会う約束をしていたとは知らなかったので、日月は少し驚いた。

 日月たちは、奥の方の向かって右側…窓際の席に座らされた。
 そこには、見知らぬ男と、まだ子供と呼べる少年が座っていた。
 傍らにはなにやら大きなテディベアのようなものも置いてあった。
 少年の持ち物だろうか。

「こんばんは、エイ君」

 高中は穏やかに笑みをたたえて少年に言った。

「こんばんは、灯さん」

 如才なく、少年は挨拶を返す。
 その様子は不気味なくらい落ち着いていた。

「こんにちは、佐上悟史(さがみさとし)といいます。…こっちはエイです。漢字で『影』と書いて、エイ」

 影、と言う少年は、軽く会釈をする。
 エイ、と言う名前にしても、なんて字を当てるんだ、と、日月は不審に思った。
 しかし、その文字はどことなくこの少年にしっくりするような気もする。

「あ、どうも、星 日月です…」

 日月が名乗ると、影は光の灯らないような黒い瞳で日月を見た。

「カヅキさん…ですか。漢字をお伺いしても?」
「え、ああ、日付けの日に、月、だけど…」
「…光の名、ですね…」

 影は、静かに呟くと、チラッとぬいぐるみの方に視線を向けた。
 そのしぐさが、日月にはなんとなく異様に見えた…この店の雰囲気も手伝っているのかもしれない。
 高中が、日月に視線を戻す。

「あのな、日月…実は、お前に頼みごとがあるんだが…」
「なんです?」

 日月はどことなくいけ好かない感じがして、少年を横目で見ながら高中に応える。
 少年は、日月のその瞳を受けても、飄々として冷ややかな視線をよこす。

「この子を、私の留守中に預かって欲しいんだよ」

 男がおもむろに口を挟んだ。

「え?どこか出かけるんですか?」

「ちょっと出張があってね…この子はうちの遠い親戚なんだが、この間面倒見てた、いとこが亡くなってしまって…私と灯君しか身内はいないんだが、出張に連れて行くわけにもいかなくて困っているんだ」

「悟史さんは俺の叔父なんだ。俺としても、留守中預かるのはいいんだけど、いかんせん場所がなくてさ」

 高中の言葉に、日月は以前行った彼の部屋を思い浮かべる。
 …確かに、彼の部屋は電化製品(とりわけパソコンの類)に溢れていて、環境はよくない気がする。
 そして、身の置き場もないほど散らかっていた。
 高中が少年を部屋に置きたがらない理由も解る気がする。

「それにしても、他にも身内ならいるんじゃないんですか?高中さんのご両親とか…」
「ああ、言ってなかったっけ。…亡くなったんだ。今年の6月に」
「え…」

 しまった、といったように、日月は気まずそうな瞳をする。
 高中はあわてて笑顔を浮かべる。

「何年か前から病気しててさ、そろそろ危ないとは言われてたんだ…寿命だったんだよ」
「は、はあ…」

 そう取り繕ったように言われ、日月は所在無げにうつむく。

「どういうわけか、このところうちの親戚に人死にが多くてね…この子も、それに巻き込まれている形なんだ」

 佐上の言葉に、日月はまた違和感を感じる。
 まるで、呪われているようだ、と。

「それでさ、お前、こないだサークルのみんなで、旅行の予定立てるって言ってたろ?悟史さんち、元学校を改装してるから広いんだ…  だから、預かりついでにどうかな、一緒に泊まりに行かないか?」

 高中の言葉に、日月は何故だか賛同しがたい思いにとらわれる。
 この影という少年が、どうしても気味悪く思えてしまうのだ。
 だが、そんなことを口に出して言うわけにも行かず、場所も山の中だが綺麗なところだと聞いて、日月は了承の意を伝える。

「よろしく頼むよ。一人じゃ、可哀相なんでね…」

「別に一人でも大丈夫ですよ…でも、来てくださるというのであれば、止めはしませんけど」

 暗い瞳をして笑む影に、日月は背筋が粟立つのを感じた。





 これが、ことの始まりだった。









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