・・・・・・ヲタ話ですw






 春麗らかな午後の京極堂である。
 古書店であるその店先には、早々と「骨休め」の札がかけられ、ひっそり閑としている。
 薄暗い店先を抜け、奥の座敷では店の主人が座卓で本を捲っている。その隣で、鳶色の目を半眼にした色素の薄い美男子が、寝転がって猫と遊んでいる。いや、猫で遊んでいると言った方が正しいか。

「京極」
「何だい」

 西洋のビスクドールを思わせる美男子は、店の主人を京極と呼んだ。この古書店の主人の友人たちは、皆彼のことを屋号で呼ぶのである。この男も、例外ではない。

「僕には分かるぞ」
「何がだい?」
「僕に隠し事をしているだろう!」

 がばと跳ね起きると、男は古書店主人をびしりと指差した。

「榎さん…」
「さっきからお前の背後には、みのりちゃんがちらちらしている!!」

 榎さん、と呼ばれた男は、不愉快と言う感情を隠そうともせず、京極堂を睨む。睨まれた京極道は、榎木津礼二郎の不愉快面に負けない険悪な表情で、彼を見返す。

「隠していたわけじゃないよ。みのり君から、何も言うなといわれていただけだ」
「みのりちゃんが僕に隠し事だって?!」

 甲高い声は、ほとんど日本語としての形を保っていなかったが、付き合いの長い京極道は何とか彼の言葉の意味を聞き取ると、ため息をついた。

「榎さん、あんたはさっきから石榴と遊んでいると思ったら、僕の記憶のほうばかり見ていたわけか」
「そぉうだッ! みのりちゃんが僕に隠し事をしているというのは気に入らないが、お前が僕以外の事を考えている、というのはもっと不愉快だ!! 不愉快だ!! 不愉快すぎて僕は不幸になりそうだ!!」

 一気にまくし立てられるのも慣れたもので、京極堂はどうやってこの誇大妄想狂の愛人を黙らせようか、と顎をさすった。

 夕べ、店を閉めようとした矢先に、滑り込むように京極堂にやってきたのが、新進女流作家の中山みのり嬢であったのだ。しかも、店先に滑り込むなり、

「京極さん、明日榎木津さんが来ます!!」

 と云ったのだ。表情には出さなかったが、京極堂は大いに面食らった。榎木津の突然の訪問にも慣れているが、それを第三者から前もって言われるなど、初めてのことだった。だが、この世に不思議なことは何も無いので、大方みのりが榎木津に何か吹き込んで、明日此処へ来るようにといったのだろう、と推理した。

「それで、僕にどうして欲しいんだい?」
「あの、私も明日此処に来ますので、それまで榎木津さんを引き止めていてくれませんか?」

 無言のまま、京極堂は片眉を上げてみのりを見下ろした。

「あのね、逢引なら外でやりたまえよ。わざわざ僕のところに矛先を向けるのは止めてもらえないか?」
「いや、でも一応こういうことは了解を取っておかないと」
「何の了解だ?」
「榎木津さんは京極さんの愛人なんでしょう?!」

 まじめな顔でそんなことを云うな!
 危うく、そう叫びだすことだった。しかし、常人よりも強固な京極道の理性は、かろうじてそう叫びだすのを堪えた。

「それで、僕に了解をとってまで榎木津にしたいことは何だい?」
「え、それを此処で云うのはちょっと…」

 上げた片眉が痙攣するのが分かった。口に憚られることなのか。憚られることならして欲しくないものだ。

「とにかくお願いします!何も聞いていないですけど、沈黙を了承と取って、それでは!」
「待ちたまえ、みのり君!」

 背を向けて走り去ろうとするみのりを呼び止めると、みのりは頭だけ振り返り、

「榎木津さんには内緒ですよ!」
 それだけ云って、夕闇に消えていったのだ。


 つまり、京極堂も何も知らない。
 だが、目の前の男は長い手足を振り回して教えろ教えろとわめきたてる。此処は早いところ当事者に登場していただかなくてはならないようだ。

「ごめんください骨休め中失礼します玄関からお邪魔します!」

 目の前で駄々をこねていた男が、急に真顔になって玄関のほうを向いた。その真顔になった顔は、全く神が光臨したかと思うほどに凛々しい。さすがの京極道も、うっかり一瞬ときめいてしまうほどだ。

「みのりちゃんだな、みのりちゃんだ、みのりちゃんじゃないかうわはははは!!!」

 だが、その凛々しい横顔を一瞬で崩壊させる馬鹿笑いと共に、長い足をぶんぶんと前後させて榎木津は玄関へと向かった。程なくして、大きな紙包みを抱えているみのりの腕を掴んで引っ張ってくる榎木津が現れた。

「みのりちゃん、待っていたんだぞ! さっきから京極の頭にちらちら君が浮かんでいるし、みのりちゃんはみのりちゃんで、僕に今日此処へくるように意外に何も云わないし!! 僕は正直、退屈で死にそうだった! 暇で暇で猫と遊ぶ以外になかったのだ!」

 そう喚きたてながら、みのりを無理やり隣に座らせた。座らせたと言うより、腕を掴んで引きおろした、と言うほうが正しいか。

「京極さんと遊んでいたんじゃなかったんですか?」

 開口一番がこれである。京極は片眉を上げて、では無く、両方の眉を思い切り寄せた。

「みのり君」
「ア、お邪魔します」

 それはさっき聞いた。しかもかなりセンテンスが長い状態で聞いた。主人の不機嫌な顔をさらりと流し、みのりは榎木津の方を向いて、何か云いかけた。しかしそれより早く、

「一体なんなんだみのりちゃん! 僕にどうして欲しいのだ、何をするつもりなんだ?! おお、その真っ白い服はなんなんだ? 軍服か?僕に軍服を着せる気か、そうなんだな!?」

 と榎木津がまくし立てた。みのりは、それに少し肩をすくめたが、すぐに平静を取り戻し、改めて紙袋へ手を伸ばした。

「そんなところです」

 そう云うと、紙袋から白い洋服一式を取り出した。そして、榎木津の方に、ずい、と追いやり、

「着てください」

 と言うと同時に、両手を畳について、深々と頭を下げた。畳に額がくっつくくらいに頭を下げた。榎木津はそのみのりの様子と目の前の白い服とを交互に見比べて、

「わはははははははははッ!!!」

 と高笑いした。

「いいだろう!! みのりちゃん、つまりはそういうことなんだな?! これを着た僕の勇士を京極にも見せたくて、それで此処にしたんだな?! そうなんだな!! それなら大歓迎だ、待っていると善い!!」

 そういうなり、目の前に出された服をむんずと掴み、隣の部屋へと消えた。
 京極とみのりだけが、その場に残される。

「どういうことなんだね、みのり君」
「見てのとおりです」
「だから、どうして僕が榎木津が服を着替えるのに一々付き合わなくてはならないのか、ということだ」

 みのりは、確信犯の真顔をしてみせると、してやったりと笑った。

「恋人の麗しい姿は何度見ても見飽きないものです!」

 確信たっぷりにそういうみのりに、京極は皮肉に口元を曲げて見せる。

「経験があるような言い方じゃないか」
「無いです! でも確信はあります!」

 そう云うと同時に、襖が勢いよく開いた。

「どうだっ、京極!! 格好善いだろうッ!!」

 そう言って、榎木津は得意げに白い帽子のつばを斜めに引き下げた。

 榎木津が身に纏っているのは、白い、白い




 ザフトの軍服であった。




 長身の榎木津に、それらはあつらえたようにぴったりであった。斜めに引き下げられた帽子の影から覗く褐色の前髪と、鳶色の瞳が、淡い影に彩られ、陰影のはっきりした端正さを引き立てている。
 衣装の白さも手伝ってか、普段よりも輝くような白い肌に、京極堂も思わず見蕩れてしまった。白い肌に映える鳶色の宝石も、真っ直ぐに京極堂を見つめている。

「うわぁ〜。やっぱりすごくかっこいいです!さすが神!」

 惚れ惚れと見とれるみのりに対し、京極は呆れた視線を向ける。

「君は畳の上に革靴を履かせるために、榎木津にこれを用意したのか?」

 京極がそう云うと、みのりは実に侵害だといわんばかりに目を見開いてくりっと京極を見た。

「だって、格好善いでしょう?」

 何も云えなかった。
 見蕩れてしまったのは、事実だから。
 榎木津が焦れて、京極の前につかつかと歩み寄ると、どすんと目の前に座り込んだ。

「で、似合うのか、似合わないのかっ!? どっちなんだ、京極!!」
「…みのり君が絶賛しているだろ?」

 軍服がかもし出す強いラインのせいか、普段よりもきつく感じる榎木津の真っ直ぐな視線から目を逸らしつつ、京極堂は小声で答えた。

「違う違うちがぁーーーーう!」

 榎木津は頭をぶんぶんと振ると、京極の肩をがっしりと掴んだ。

「みのりちゃんに聞いているんじゃない、お前に聞いているんだ!! さあ、はっきりしてもらおうか!」

 そう言って激しく前後揺すぶられそうになるのを必死で留め、京極堂は俯いたまま、小さな声で呟いた。

「に…似合っている…さ」

 その一言に思い切り相好を崩すと、榎木津は思い切り京極堂を抱きしめた。

「ああ〜〜〜〜!! 愛い!! 愛いぞ京極!! お前は本ッ当に愛い!!」
「寄せ、榎さん! みのりくんが…!!」
「みのりちゃんなら気を利かせて帰った!!」

 その一言に、先ほどまでみのりが存在したスペースに目を向けると、そこには半紙に墨汁で黒々と一言

『できるだけ汚さないでください』

 としたためられていた。

「大丈夫だ!! 脱いでしまえば汚れない!」
「榎さん!!!」

 勢いよく押し倒される京極堂に、最早彼を止める術があっただろうか、いや、無い。


 帰り道の中山みのりは、メモ帳に次回作の構想を書き留めつつ、鼻歌交じりで帰路についていた。










ごめんなさい。
 すみませんでした。
 申し訳ありません。
 もうやりません。
 お詫びのしようもありません。
 だったらやるなって話ですが。

 X−ファイルのファンフィクションを読んでいてふと思いついて書いてしまって、
 書いてしまったらみのりさんが出て来ていて、
これは送り付けなければなるまい、というか…そんなテンションでして!
 しかもタイトル未定かよ。
 ごめんね。不快指数うなぎのぼり確実。
 二度とやら無いから。ごめん。許して。本当マジで
 ・・・すみませんでした。(土下座)

中原耕治


2006.3.3



面白いからなんでもOK!(笑)
いやでも私のその物書き観はちょっと買いかぶりすぎです…(恐縮)
いやー、ザフトの軍服はね!笑ったよwwww


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