「触らないでください、ゼロ」
かつては聞いたことのないような硬質な声で、車いすに頼りなく座る少女は、言った。
「わたくしは、あなたを絶対に、許しはしません」
―赦されざる罪を負う、世界を。―
それは、甘えだったのかもしれない。
何気ないことだった。
黒い仮面越しに見えた彼女の肩に、糸屑を見つけたから、それを取り除こうと手を伸ばした刹那、その言葉の矢はつきたてられた。
しばしの沈黙ののち、黒ずくめの男はうやうやしく跪く。
「申し訳ありません、皇帝陛下。どうかお許しを」
「……」
それに一瞥をくれると、彼女は傍らに佇む白の男に優しげな視線を投げた。
にっこりと笑むと、打って変ったように年相応の少女の声で、
「シュナイゼル兄様、少しだけゼロと二人きりにしていただけますか?」
と、ちょっとしたわがままのように――けれど、ゼロを名乗る男にとっては(もしかしたら彼女自身にとっても)残酷な時間の幕開けとなる言葉を――腹違いの兄に告げた。
当のシュナイゼルはその視線をゼロにちらりとよこす。
シュナイゼルはゼロに従う。
本来なら、ゼロが拒めば彼女の要請は却下されるだろう。
しかし、実際ゼロは彼女の傀儡。
黒ずくめの男はかすかに頷くことしかできず、シュナイゼルは疑うことなくその人払いに応じた。
パシュ、という間の抜けたドアの閉まる音を聞き届けると、今まで見たこともないような強い光を宿した彼女の双眸が、男を貫いた。
「わたくしは、許しません、絶対に。――人の意思を捻じ曲げ、従わせる力を。たくさんの人々を殺したことを。わたくしから憧れの人と――お兄様、を、奪ったことを」
兄を呼ぶ声は、涙におぼれそうな、か細い声で。
「わたくしは、許すことを許されないのです。――それは『あなた』がよく知っていらっしゃるでしょう?」
その仮面の奥に潜む、彼女が知る本当の――あるいは誤解したままかもしれない――彼に向けて、ナナリーは見えなくなってしまった嘘を見抜く瞳を凝らす。
ある種父親によく似たその潔癖さで、彼女はその覚悟に偽りを許さない。
自らもまた人殺しの罪を負って、罰を受けた。
憧れであった幼馴染の彼と、愛しい――誰よりも愛しい兄を奪った、ほかでもないその兄の真意を知ることによって。
「貴方が記号であることを選んだように、わたくしも『ブリタニア皇帝』という記号を選ばなければならないのです。だから」
嗚咽を飲み込むような仕草で、彼女は言葉を一瞬飲み込む。
睨むように――涙をこらえるようにして、100代皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、決然と黒の仮面に言い放った。
「わたくしを、ただの『ナナリー』として扱うことを、許しません。――心得てください」
黒の男の反応を待つことなく、彼女は車いすを反転させる。
その車体が、責め苦の空間を抜け出す瞬間――傷ついたような眼をする彼女にとどめ、とばかりに黒い塊は吐き出した。
「イエス、ユアマジェスティ」
――貴女の権威のために。
その言葉に、冷えた視線を投げかけると――
彼女は一人、彼らが望んだ世界へと帰って行った。
黒は声に出さず、嘆く。
彼らが望み、そして恨んでやまない、世界を。
(正しいものなんて、何一つ無い)
あるのは、何を選択したかということと、その結果だけだ。
大きく息を吸い、かすかに苦いそれを吐き出す。
いつまでもこの嘆きの空間にいることは許されない。
ゼロもまた、彼が望んだ世界へと、一歩、足を踏み入れる。
償いが終わることはないけれど、償いによって変わる世界を、夢見て。
一粒で3度切ない読み方。
1.ルル実は生きてたエンドの場合。
ゼロの中身はやっぱりルル。
ナナリーはそれを知ってるけどもうルルには兄妹として(もしくは男として)甘えられない。
スザク放置。←このへんが切ないw
2.ルル実は生きてたエンドその2
ゼロの中身はやっぱりルル(2回目)。
でもナナリーは中身がスザクだと思ってる。
知らずにゼロに冷たいこと言うナナリー。どっちも心が痛い。
そしてやっぱりスザク放置(笑)
3.ルルやっぱり死んでたエンドの場合。
ゼロの中身はスザク。
ナナリーはゼロレクイエムの本質全部理解してる。
「ゼロ」という記号を憎んでる(ルルVer.,スザクVer.にかかわらず)。
でも「ルルーシュ」は変わらず誰より愛してる(兄として男として)。
スザクのことは赦してるけどやっぱり恨んでる。
どれもバッドエンドだけど、どれも世界にとってはハッピーエンド。
こんな補完が見てみたい! (願望)